「ただいま~。」


玄関を開けると、ミートスパゲッティの甘酸っぱい香りが立ち込めていた。


「おかえり。今日はスパゲッティだからねー。」


エプロン姿のお母さんは、スパゲッティを茹でながらニュースを見ていた。

《昨日未明、マンションに住む女性、39歳が、行方不明になっていた事件で、息子の……》


「やーね~。最近、こんなニュースばっか。まぁ、この島じゃ無関係だけど、子が親を殺すなんて…悲しくなるわ。」

そう言いながら、茹で上がったスパゲッティを味見していた。

「あ、そうそう。こないだお母さんがガイドしたツアー客でね、行方不明になってた人がいたんだけどね、なんの連絡もしないで、ツアー取りやめてたのよ、まったく。そのせいで1時間も予定狂ったんだから~。」


「でもよかったじゃん。夏はツアーなんてあんまりないんでしょ?
ツアーを担当できただけ、儲けたって思えば。」


お母さんの会社は、契約社員制で、仕事に出ない月でも八万位は給料が出る。
まぁその分、いつでも呼出されたら、仕事が出来るようにしなきゃいけないんだけど。


「そりゃそうだけど…」

小言をぶつくさ言いながら今日の夕飯を出してきた。
出されたミートスパゲッティの湯気が、優しく僕の顔を撫でて昇っていく。