隣で騒ぐ彼を見ながら、あんなに綺麗な容姿なのに騒がしい人なんだなぁ、とか。

 黙っていれば格好良いのに、とか。

 思わないこともなかったけれど。


「……アンタが名前名乗ったとき、風が吹いた所為で聞こえなかったの」

 あまりにも大袈裟な悲しみ方だったから、私は、はぁ、と一つ大きなため息を吐き出しながら名前を覚えていなかった(と言うか聞こえなかった)理由を簡潔に説明する。

「なーんだ、覚える気がなかったわけじゃないんだ」

 私のその理由を聞くと、ゆきやと名乗った少年はあっけらかんと笑ってみせる。

 やっぱりあれはただの演技か。

 なんて思っていると今度は彼がすっと右手を伸ばしてきて。


「……何?」

「なに、って握手」

「はぁ?」

「俺、喬木 雪哉(たかぎ ゆきや)。よろしくなっ」

 そう言ってあまりにも嬉しそうに。楽しそうに笑顔を浮かべて手を差し出してくるものだから。

 私もつい、それに流されてしまって。


「前も言ったと思うけど……各務 綾香。……よろしく」


 多分私は。

 彼のあの笑顔に弱いのだろうと、握手を交わしながらふとそんな事を思った。