「う…ん…。…私…どうして…ここに?」


 気を失う前のことを必死で思い出そうとしているようだ。


「お前、『火事だ』って聞いたとたん、動かなくなってさ。しょうがねーから、俺が抱きかかえて、B棟の屋上からA棟に飛び移ったんだよ。まったく、俺じゃなかったらあんなことできないんだからな。」


「ありがとう。」



 素直にお礼を言う桜に稔はなんだか拍子抜けしてしまった。



「それはいいとしてさ、何か思い出したのか?」



「うん。」


 一生懸命、細かいことまで説明する桜。


「そうか…。なんだかだんだん核心に迫ってきたな…。」


「うん…思い出すのか怖くなってきた…。去って行った犯人…なんだか…」



 桜がうつむいて話をしている。


 表情が暗い。




「なんだか?」



「…ううん。なんでもない。明日、先生たちに相談しよう。」



「そうだな。」