「……下手くそ」




自分で自分に言いたくなった。




トランペットの先輩が引退してしまい、パーカッションからトランペットに移って一年。




そのつもりで、前々から練習をしていたとは言え、




結局、引退まで腕前はそれなりだった。




野球部よりちょっと遅れて引退になったわたしは、




放課後の音楽室と楽器に、お礼を言いに来ていた。




トランペットを吹いたのは、野球部の応援が最後やったな。



応援歌のイントロを少し鳴らしてみれば、




見事に音を外した……。




はぁ、ヘコむわ。




「ホンマ、下手くそやな。おまえのトランペット」




どこからともなく現れたかと思えば、開口一番憎まれ口。




それを無視して、楽器からマウスピースを外していたら、




「……でも、その下手くそなトランペットが聴こえたらな、マウンドでも気持ちが楽になってん。ホンマ」




こう言ってにっこり、満面の笑みでわたしを見つめていた。





「……褒めてんの? 貶してんの? 殴られたいの?」



「褒めてるよ? 俺より下手くそがあっこにおるわ~って……わぁっ! 褒めてんのに殴んなや」




「ウルサイッ。褒めるならちゃんと褒めろっ」




マウスピースを握っていた手で、ポカポカとヨシを殴った。




もちろん照れ隠し。




わたしだってアンタの投げる姿に、




いっぱい勇気もらったんやから。