『遠距離恋愛のしかた』


信平は顔を見ればすぐにわかるのに、莉央はまったくと言っていいほど読み取れない…




全く正反対の二人…




面白い…。



ふふふ…



『なんで笑ってんの?』


信平の突っ込みに、


『…だって、莉央と信平、正反対な二人だなって思って…』


『まぁ…よく言われる。でもアイツさぁ、飲むと人が変わるよ。』



『そうなんだ。』


『…やっと普通の会話できたな…。』


『えっ?』


『だって…さっきまで何を聞いても、“うん”しか答えてくんなかったし…』



やばっ…


『…そうだっけ?』


と、ごまかしてみた…。



『そうだよ!!…じゃあ…改めて聞くけど、渚ちゃんって…フリーだよね?』


『うん…なんで?』


『…狙ってるから!』



…ハイ??



狙ってるって…



『美希ちゃんと約束してたんだぁ…。』


『何を?』


『カッコいいやつ紹介するから、渚ちゃん連れてきてって!』



なぬっ?


美希のやつぅぅ…


だんだん楽しそうにしている美希がムカついてきた。


『まぁ…莉央はかなり人見知りだからさ…こうして四人でじゃないとね…これも美希ちゃんのためにってことで…』


回りくどい言い方…



なにが言いたいのよ…


『だから?』


無意識に眉間にシワがよる…。


『だから〜♪渚ちゃんは美希ちゃんのために俺の隣にいてね♪』


はぁ〜?

露骨に嫌〜な顔をしたのにも関わらず、信平の顔は憎めないほどの満面の笑み…



まったく…



参ったよ…。




私は苦笑いするしかできなかった。




この出会いから信平の隣には私…


莉央の隣には美希…。



四人で会うときは必ずこうだった。



莉央は、おしゃべりで積極的な美希に押されまくり…

あまりしゃべらない莉央だから、本心はわからないけど、私の目から見てそんなに嫌がっているようには思わなかった。



このまま、美希と莉央はうまくいくんじゃないかな…


そんな気がしてた。









私達四人は、四人の都合が合えば必ず会っていた。



やっぱり信平は私の隣にぴったり張り付いてるし…



だから私はまともに莉央と話をしたことがなかったように思う。




まともに話したのって…



いつだったかな…?







莉央と私…



二人だけで話すことなんて…



なかったなぁ…。





莉央とマトモに話したのって…

私が急遽バイトになり、ドタキャンしたとき…



私のバイト先はファミレスで、あともう少しで終わりというときだった。




『すいませ〜ん』




声のするほうへ振り向くと…




げっ…



なんで?




私は足を止めた。



だって…



めっちゃ笑顔の信平が手を振っていたんだもん。



なんでいるのよ…



つい、躊躇していると、後ろから、



『俺が行くよ!』



振り向くと、先輩である長谷川さんが、私の肩をポンッと叩き信平の席へ向かった。



『ご注文はお決まりですか?』



『あ〜…あんた呼んでないんだなぁ…俺、あの人の彼氏なんだけど…』


信平は笑顔でサラッと変なことを言い出した。




はぁ〜??




長谷川さんが振り返った。




違うっ!!



あからさまに首をブンブン振るけど、長谷川さんは私のところにまでやって来て、


『彼氏いたんだ…』



ボソッと耳元で呟き、違うテーブルへ行ってしまった。


『ちがっ…』



否定したいのに…



『…アイツ…渚ちゃん狙いだね…』


って…私の肩に手を回し、いつもは笑顔なのに…


長谷川さんを真っ直ぐ見つめていた。





『なんでいるのよ!ってか、彼氏じゃないでしょ?』

肩に回っていた信平の手を振り払い、距離をとった。



『あぁ…未来のってつけ忘れた!』


っておどけて舌を出した。


あ〜ぁ…



長谷川さん、完全に誤解しちゃってる…。




私は、長谷川さんに密かに想いをよせていた。


だから…
信平には来てほしくなかった。


バイト先を聞かれても教えなかったのに…多分美希が喋ったんだろう…。



ったく…美希のやつ!


おしゃべりなんだから…。


心の中で悪態をついていると、



『いい加減にしろよ!信平!いいから座れ!!』



その声に信平は渋々席についた。



あっ…莉央…。



すっかり信平に気をとられてしまって、莉央の存在に気が付かなかった。





『悪かったな…急に来ちゃって…』


莉央は申し訳なさそうに私を見た。




『…ううん…。私こそドタキャンしちゃってごめんね…。』



『いや…バイトなんだから仕方ないじゃん。』


って…




笑った。




莉央の笑顔…



珍しい…。




っていうか…




信平みたいににっこり笑ったのなんて…



初めて…??






私が今まで気が付かなかっただけ?




無口であまり表情を出さない莉央の笑顔は…


意外にも無邪気で…かわいかった。




『あっ…美希は?』



莉央の笑顔に見とれてしまったことに焦ってごまかした。



すると、今の今まで笑っていた莉央は急に真顔になって…露骨に嫌な顔をしながら視線を反らした。




ぇえぇ〜…なんで?



『怒ってる?』


顔を覗き込むと、


『別に…。コーヒーちょうだい。』


あからさまに怒ってるじゃん!!


『美希ははなっから呼んでないの!俺もコーヒーね!』


信平が割って入ってきた。


なんで?





コーヒーを持っていっても、莉央の機嫌は直ってなくて…



気になったけどちょうど混み始める時刻になり、莉央と信平とはそれっきりで…


いつ帰ったのかわからなかった。











やっとあがりの時間になり…



莉央と信平のいた席にはカップルが肩を並べて座っていた。




莉央、機嫌良くなったかな…



『お疲れさん!』



肩を叩かれてハッとした。


『お疲れ様です!』


振り向くと、長谷川さんだった。



いつもなら、もう一言二言話すのに…


それっきり長谷川さんは休憩室に入ってしまった。




誤解…解かなきゃ!!




私も休憩室に向かった。








休憩室には、好都合…長谷川さんしかおらず…



長谷川さんはタバコを吸っていた。