※LOVE BOXの続編として読みにきて下さった方へ※
この作品は、2007年8月〜2008年11月までの間
リアルタイムで自分の気持ちを綴った作品です。
先に謝りますが、途中で大きな心境の変化や、生活環境の変化が起こる為、少々読みにくい箇所もあるかと思われます。
タイトルも途中で
【二人で生きると言う事】
↓
【男性不妊と宣告されて〜不妊治療闘想記〜】
へと変えました。
いろいろあったけれど、2007年の私も、2008年の私もどちらも本当の自分の気持ちで……
だから、あえてこのままエッセイとしてお楽しみ頂けると嬉しいです。
それではどうぞ♪
私の名前は桜木葵。
(ちなみに旧姓は矢口葵)
結婚して3年になる主婦。
夫の桜木リュウジと二人暮らし。
リュウジとはネットを通して奇跡的な出会いをし、遠距離恋愛を実らせて今に至る。
(詳しくは別の小説「LOVE BOX」を参照下さい)
現在転勤族である夫リュウジは外食チェーン店で勤務している。
けれど……時間がまばらで落ち着かない上に、収入も限られる今の仕事を辞めて気候のよい場所での転職を探していた。
今の仕事も悪くはないんだけれど……。
やれ、食器が足りないとかで他店舗に借りに行かされる。
もちろん営業終了後の深夜に。
時には他県だ。
残業手当なんて出る訳がない。
それを労働なんとかの違反なんて言っていたら身を滅ぼすだけ。皆、不納得ながら従うのだ。
食器……お店で買えばいいんじゃ??
そんな私の普通な考えは通じない、チェーン店で在るが故なのかどこか独特な世界。。。
そして、夫リュウジには持病がある。
小さい頃小児がんを乗り越えた彼は、幼い体で受けた大手術の成功と引き換えに
手術の際の腸の癒着による腸閉塞をきっかけがあれば引き起こしてしまうのだ。
もちろん。
普通にしていれば問題はない。
肉体的、精神的に無理をした時に急にそれは彼に襲い掛かる。
今の職場に入って3年で2回。
一緒に暮らし始めてからは3回。
これ以上睡眠時間の取れない過酷な今の仕事を続けられるのは、私にとっても不安な事。
深夜に救急車やマイカーで病院へ連れて行くのも、入院の準備も今ではすっかり手馴れてしまった。
はっきり言ってなんにも嬉しくないんだけどそれが現実。
更に半年〜1年単位で繰り返される転勤生活では、いつまで経っても夫婦として落ち着くことすら出来ない。
会社の寮を転々とする生活も楽しくはあるのだけれど……そろそろどこかに落ち着きたかった。
若い頃、フラフラしていた私には高望みかもしれないけどさ。
安定した生活ってのを送ってみたかったんだ。
私がリュウジと結婚してこの転勤生活に入ってから……
まぁ実際に籍を入れたのは途中だったけれども、専業主婦にならざるを得ない生活を送っていた。
会社の辞令はいつも突然。
10日後には他県へ、なんて話は当たり前。
そんな生活では当然働く事なんて出来ず、子供もいないのに主婦生活。
する事もないので家計を助けるべくクロスステッチで作った「くるみボタン」をネットオークションで売ってみたり、
懸賞生活にはまってみたり、そろは至って平和で平凡な主婦の日々。
自転車に乗ってスーパーの特売へ向かう。
化粧なんて必要ない。
少しだけ物足りないけど……自分の為にネットで調べた情報を手にダイエットや美容に励んだりする日々。
それが100%イヤな訳では無い。
だけどね?
頑張るリュウジにはっきりとは言えなかったけど、ホントは早くリュウジに今の仕事を辞めて欲しかった。
サービス残業もありえないほど多すぎたし。
だから入社から3年が経ったある日。
彼自身限界を感じていたのもあったんだと思う。
リュウジと二人、私たちは思い出の地に立っていた。
そこは二人の思い出がたくさん詰まったとある県。
遠距離恋愛の頃たくさん遊びに来た。
GWには息抜きに旅行に来て
結婚式も挙げた大好きな土地。
もしも、引っ越すなら絶対にココって決めてたんだ。
私達はこの県だけに的を絞ってひたすら求人情報と格闘した。
昼間ヒマな私だからネットで必死に情報を探し、時間のないリュウジもチェックを欠かさず頑張る日々!!
その結果、とある会社で面接を受けられることに決まったんだ。
もちろんまだ採用された訳じゃない。
それでも私たちの心はときめいた。
「そもそも辞めるつもりだった会社なんだから、別に怒られてもいい」
と無理を言って平日に休みを取ったリュウジ。
外食産業なだけに土日以外は休みやすかった事に救われる。
「ねぇねぇいくら○○県とはいえ広いんだね〜」
「この会社どこにあるんだろ?」
地図を見たり、ネットで調べてみてもよく分からなくて……。
それでもなんとかルートを調べて近くの民宿を予約する。
それは……久々のちょっとした小旅行な気分だったりして。
「レッツゴー!!!」
あたたかな春の日差しの中、こうして「他県で面接」という名の1泊旅行がスタートした。
面接日は一泊した翌日。
よく来る県内ではあるけれど、ここはいつも私達が遊びに来る地方とはちょっと違う。
たぶん……面接に落ちたらもう来ない街。
「せっかくだからいっぱい観光しなきゃね」
「ちなみに名物とかあるの?」
リュウジは、腸が弱いくせに食いしん坊だ。
「んと……いろいろあるみたいよ」
この日の為に同じく食いしん坊な私が買ったガイドブック。
「じゃあ楽しみだな」
なんて言いながら、面接前だというのに私達は呑気に到着した。
半分は緊張をほぐす為、半分は落ち着かない生活から少し離れて羽を伸ばしたかったんだ。
という訳で、初日は博物館やら滝やらを見て宿に着いた。
そこもホントに素朴な民宿。
地元の山菜なんかを振舞ってもらい、地酒でまったりいい気分で。
明日面接なのにこんなのんびりしてて……いいのかな。
前の日から気合いを入れすぎても仕方ないけれど。
お水がとってもキレイな街。
そのせいか勧められたお酒は本当に美味しかった。
優しい民宿でのもてなしや、自然あふれる環境にこんな場所に住みたい……
と、ますます気持ちが固まる。
……まぁ、面接を頑張るのはリュウジなんだけど。
朝になって。
リュウジは持参してきたスーツに着替える。
私は待ってるだけだからいつもの普段着。
そして、若干のスーツフェチな私の顔がちょっとだけゆるむ。
昔からホスト系やビジュアル系の人が好きなのはかっちりした格好だからなのもあるのかも。
なんて。
そんなカッコ良くなったリュウジの横顔はさすがに緊張していた。
ただ祈るしかできないのがもどかしい。
でも、
こういう時、私達はいつも一緒に過ごしてる。
隣にいるだけで安心してもらえるなら励ますのみだ。
朝から始まった面接は思ったより長引き、1時間以上待たされた後、リュウジからの電話が鳴った。