「いや・・・。気にするな。ただ、あんな患者ばかりを見ていると、時々考えてしまうババアの戯言だ。」


 とはいえ、エリアスの年齢は、まだ20代だった気がするが・・・。


「暇人が。」


「そういうなら、毎日進歩する医学の中に身をおいてみろよ・・・。」


 微笑を浮かべるエリアス。


 それを見て、海人はゆっくりと遠くを眺め、一息つくと。


「・・・・・・・・・・・・・・・・それが、人が楽園に帰れない理由やろう?」


 ため息交じりに口にしてみる。


「?」


 唐突の言葉に、不思議そうな表情を浮かべるエリアス。


「人が戦争を続ける理由や・・・。禁断の果実を食べたぐらいで、人間はエデンを追い出されたんやで。ましてやこんな愚行・・・神じゃなくても、許す訳ないやろう?」


 旧約聖書、創世記。


 蛇に騙され、禁断の果実を食べたアダムとエヴァは、神に見守られたエデンの園を追い出され、それ以後、人は労働と出産の苦痛の中で生きるコトを義務付けられた。


 人が地上に暮らしていた頃の、旧世紀の宗教。


 たとえ、どんな環境に暮らしていても、人は神への信仰を亡くして暮らすことはできない。


「いつから、クリスチャンになったんだ?」


 エリアスの苦笑い。


「なんなら、仏陀の説法を話しても良いで?」


 海人自信、何かの宗教を信じているわけではない。


 ただ、知識としてあらゆる宗教を知っておくことは、人生の中で必要だというのはアルクの方便。


「遠慮しておくよ・・・それじゃあ、次の患者が待っている。」


 左手を振り、踵を返すエリアス。


 入り口まで来て少し立ち止まり。