「海人、その女性は?」


 女性を肩に担いだまま、何とか器用に這い出ると、いつの間にかギアを降りていた菫が声をかけてくる。


 意味不明な行動に怪訝そうな表情を向ける菫。


「あぁ、幽霊ギアのパイロットや。怪我しているみたいやから、病院に連れて行こうと思ってな・・・。」


 その言葉を聞いた瞬間、菫の瞳孔が広がり、顔がゆがむ。


「!・・・正気?」


「当然やろう?」


 可能性は極端に低いことぐらい承知している。


 相手は負傷していた。混乱していたし、自分の顔をハッキリ見たわけではあるまい。


 しかし、彼女は自分の顔を見て、『鈴蘭』と呼んだ。


 懐かしそうに、二年前の男を思い出すように・・・・・・・・・。


「危険すぎだよ!軍人を助けるなんて!!」


 菫の怒鳴り声。


 それを聞き流しながら、海人は白い機体からゆっくりと降りて、皐月の元へと向かう。


「スラムにだって脱走兵は大勢おるやろう?」


 皐月のコックピットに、女性を乗せる。


 一人用のコックピット。怪我をしている女性を乗せるには、あまりにも狭くて不衛生だが、この際贅沢は言ってられない。


「自分で逃げてきた兵士と、連れて帰るのではわけが違うことぐらい、わかるでしょ?」


 確かに、軍人をスラムに連れて行くには、危険が伴うことは承知の上だ。