「お待たせいたしました。」

と言って小走りで近付いて来た。

「今日はどんな風にしますか?」


「…短ければ何でもいいです。」

こんな髪の毛、どうなってもいいよ。

おへそまで伸びっぱなしの長い髪。

健が好きって言ってくれたから伸ばした髪。


もう必要ない
もういらない


男の人は少しためらって

「…分かりました」

と柔らかく微笑んだ。


ふと名札を見たら

城崎 祐太
Kizaki Yuta

と書かれていた。


城崎さん…



「高校1年生なったばかりですね。」



ポタ…ポタ…

やだっまた泣いてる。

城崎さんは何も言わないで
ティッシュをサッと差し出しててくれた

「…っ…ありがとうございます…」

「うん。」




それから城崎さんはいろんなことを話してくれた。

お姉ちゃんの話
友達の話
美容師の話…

その話はどれもとてもおもしろいものばかりだった。

その間健のことは考えずに済んだ。


「はい、出来上がり。」


鏡に映っている私の髪は前下がりボブになっていた


「後ろはこんな感じだよ」


「うわあ!凄ーい!」

今までこんなに短くしたことなんてなかった。


椅子をクルっと動かして

「足下お気をつけ下さい」
さっき話ていた声ではなくキリっとした声でそう言った。

足下には凄い量の髪の毛。

「すごい量っ…」

思わず笑みが零れた。


そしてカウンターの横のソファーへ座って髪の毛を触ってみる。

短いな~
「カット代3075円になります。」

「3千~75円、ぴったりだ♪」

「はい、丁度お預かりしますね」

レシートを持って戻ってきた城崎さん。

「今日、担当させていただいた城崎祐太(きざきゆうた)です。」

と言って名刺入れから1枚名刺を出してレシートと名刺を差し出した。

「あ、ありがとうございます」
両手で名刺を受け取った。



カラン…

お店の外まで出て来てくれた城崎さん。