その日の朝、僕と父は何故か正座をしてテレビをみていた。
家のなかには窒息してしまいそうなくらい重い空気が充満し、少しでも息をすれば剃刀の様に喉を切り裂いてしまいそうな気がした。
静寂のなか、しゃくりあげる声と文字を羅列したような何かが聞こえた。
隣の部屋で抱き合って泣いている妻と娘のものだ。なにかを罵っているようだが、うまく聞き取れ無い。
僕と父、そして世界中の人びとが見守っているであろうそんな中、
ニュースキャスターは悲痛な面持ちで口を開いた。
僕はその先を聞きたくなくて、テレビを消した。 いつもテレビを見ているときにチャンネルをまわされただけで酷く機嫌を損ねる父も、なにも言わなかった。
僕と父は顔を見合わせて微笑んだ。父の微笑みは母の死以来しばらく見せたことの無い哀しいそれだった。
僕もおそらく、同じ様に笑っているのだろう。
性格も容姿も嗜好も全く違うのに、変なところで似たものだ。
妻と娘のひくりひくりが一層大きくなった。
やっぱり親子は似るらしい。
窓の外に広がるのは、皮肉にも青く澄んだ空だった。