〔赤碕駅〜赤碕駅でございます〕
片道20分。学校へはギリギリの時間帯。
ドアが開くと、少し派手な女の子が目の前で待っていた。
「おっはよー真早紀!早く行かないと遅れるよう!」私の名前を呼ぶ。
正式に言うと『霧立矢真早紀』“キリタヤ マサキ”
皆には“まさ”とか“さき”とか呼ばれている。

「うん、うん、分かってるって―」
と、返事を返す。
目の前にいる、パーマをかけたお目目パチパチのこの子は『西上姫凪』“ニシカミ ヒナ”。
小学校からの鎖縁で親友。何をするにもとにかく一緒。まるで双子みたいに。

高校はバラバラになるだろうと思っていたのに、思わぬところで着いてきた。
呆れもしたけど嬉しかった。本当は一番嬉しかったのは私かもしれない。

「ねえ、真早紀ー、今日の調理実習はフォンダンショコラ作るけど‥」
と、そこで言葉が止まる。真っすぐ前方をみながら。
「どうした?ひな…あ、ああ‥…はー‥」
姫凪が見つけた先には、聖歌のプリンスと呼ばれる男が歩いていた(姫凪が付けたあだ名)。

女子にかなりの人気で、あたしから見たら“手の届かぬ存在”だ。
でも、興味なんかないし、格好良いとも思わない。
変かもしれないけど私にとっては普通なこと。
だから“恋をした”なんて一度さえ‥

「ないよね、うんうん」
姫凪が呟く。
「は?何が?」
真早紀が返す。
今日は嬉色い声は上げないようだ。と、少し驚く。
「うー、王子も悩むかなーって」
「何に?」
腰に手を構え、真早紀の返答に当たり前のように言った。


「恋よ」