「宜しくお願いします。皐月さん、静樹ちゃん」
小さくお辞儀をして微笑むと、二人も笑顔を返してくれた。こんなに穏やかな気持ちになれたのはいつ以来だろう。
もしかしたら初めてかもしれない。
「ふふ、瑞樹のお友達にしてはホンマに礼儀正しゅーてエェ子やね?」
「どーいう意味やねん」
「そのまんまの意味やん?」
「…ババアうっといわ」
「瑞樹!ちょお聞き捨てならんよソレ」
皐月さんの言葉に、今まで黙っていた椎名君が突っかかっていく。そんな風景もまた、心地良かった。
「……オイ、はよ染めるで」
一通り言い争った後、
若干ぐったりとした椎名君が僕に視線を向ける。やっぱり母は強し、なのかな。
「こっちでやるから」
「あ、うん」
ゆらりと体を起こして、僕にタオルを渡しながらリビングを後にする椎名君。そんな彼の後を追いかけながら、僕の口元は緩みきっていた。
君と出逢ってから
僕はよく笑っている
「ありがとう」
口から継いででた言葉は、誰に拾われる事もなく温かな空間に溶けていく。僕は、真っ直ぐに椎名君の背中を見つめた。
椎名君も同じだったら嬉しいな、…なんて。少しだけ烏滸がましい事を願いながら。