「みー兄、だれぇ?」

椎名君の足に纏わりついて、ひょこっと顔を覗かせてくれる可愛らしい女の子。

小学校の低学年ぐらいだろうか。

僕は改めて呼吸を整え、相手にとって聞き取りやすいであろうテンポで声を出した。

「はじめまして。僕は野々上恵、お兄さんの“友達”だよ」
「バッ…!」
「と・も・だ・ち、です」

否定される前に断言してやった。

はは、何だかしてやったりって感じ?

椎名君の目と眉は恐ろしく吊り上がっているけど、見なかった事にしよっと。





「ともだち…」

椎名君の妹と思われる女の子は、四文字の単語を不思議そうに呟いて。慌ただしく部屋の奥へと消えて行ってしまった。

それをポカンと眺めていると、不意に額を小突かれる。

「はよ入り」
「あ、うん。お邪魔します」

誰も居なかったけれど、丁寧にお辞儀をしてから靴を揃えた。そんな僕の様子を見て、今度は椎名君がポカンとしている。

「難儀な奴やな…」
「はは、癖だからね」
「さよか」

ぽりぽりと項を掻いて進む椎名君の後をついて行きながら、僕の心は弾んでいた。


――先程の出来事が嘘のように。