どうして、椎名君の家族がこんな仕打ちを受けなければいけないんだ?

確かに、椎名君の言う通り。お兄さんがした事は許される事じゃない。けれど、


「――馬鹿!」

気がついた時には、僕は椎名君を押しのけて紙を剥がしていた。一枚も残さないように、跡すらも残さないように。

必至で剥がしていた。

「…お前」
「椎名君は馬鹿だよ!なんで……何で、僕に言ってくれなかったの?僕にぐらいは吐き出してくれたって…」

ぽた、ぽた、

頬を伝う冷たいもの。それが涙なんだと理解するまでに時間が掛かったのは、今までに泣いた事がなかったから。

涙なんて、流した事がなかったから。






「まあ、入りや」

椎名君は僕の頭にふわりと手の平を乗せ、涙を見ないように目の前に立ってくれた。その優しさで、更に涙が溢れる。

「汚いけど気にせんとってな」

そう言いながらポケットから鍵を取り出し、椎名君はゆっくりと鍵穴を回す。

僕は急いで涙をシャツの袖で拭い、呼吸を整えてから声を出そう、…と、思ってたんだけど。




「みー兄ぃ!」

玄関先から聞えて来た可愛らしい声で、自分の声を出す事ができなくなってしまった。