通りすがりの生徒達も、目を丸くして椎名君を見ていた。うん、それはそうだよね。

僕だってこんな椎名君を見たのは初めてだったもの。

そして一頻り笑い終わった椎名君は、咳払いをして僕の頭を雑に撫でた。


「こんな頭されとったら堪らんわ。染め直したるから俺ン家来いや」
「え?」
「せやから!お前は俺を笑い殺す気かって言うてんねん!そんなん御免や…」

最後は乱暴に頭を叩いて顔を背ける。

ああ、どうしよう。心が、ぽかぽかする。心が、満たされていく。今日の太陽が、特別温かく感じる。椎名君、すごいや。

「ムラだらけにしないでよ?」
「……ええ度胸やな」

僕は椎名君の一歩後ろについて歩く。学校とは逆方向に向かって。二人で。

「ふふ、嬉しいなあ」
「キッショい笑い方すんなやボケ」

この時は、未だ知らない。

「ええ~?」
「…またそれか」


椎名君が、

どれ程辛い思いをしてきたのかを。椎名君の家族が受けた、苦しみを。――未だ。

本当に、

人間という生き物は何なんだろう。自分もそうなのかと考えたら、吐き気がする。


愚かで、浅はかで

醜くて、真っ黒な


キタナイニンゲン