登校中に椎名君に呼び止められ、自然と止まる足。


「なに、珍しいね?」

いつも二人で居るようになった、とは言え。

実際は僕が変わらずしつこく追い掛け回しているだけで、椎名君は迷惑がっていた。ただ、前程つっかかって来ないからそれに甘えているだけ。

だから、こうして椎名君が僕の事を呼ぶなんて珍しい。思わず顔が綻ぶ。

「お前…」

僕は椎名君の言葉を待った。

「なんやねん、その頭」

そう言いながら近付いてくる椎名君に、満面の笑みで僕は答える。

「昨日、染めて来たんだ。どう?綺麗に染まってるでしょ?もう先生達からのラブコールが面倒でさ。僕はグレたんだーっていう主張、みたいな?」

金色になった前髪を弄りながら得意げに話すと、椎名君は俯いてしまった。あらら?僕変な事言ったかな?

「お父さんもお母さんも卒倒しちゃって、もう大変!でも面白かっ…」
「――ぶは!」

僕が言い終わるより先に、椎名君は噴出しながら肩を震わせる。もしかして、…笑ってる?

「お前、ほんまアホやな!今時グレたら金髪って、…しょ、小学生でも思えへんわ」

クックと揺れる肩に、涙目の椎名君。何だか貴重なものが見れちゃったな。やっぱり髪の毛を染めて正解だったかも。

「だって僕、今まで優等生キャラだったし。これくらいの方が解り易いかなーって」
「だからって普通染めるかあ?!…アホや、ほんまアホや!」
「ええ~?」

終いにはお腹まで抱えて笑いだした。ねえ、流石にちょっと傷付くんだけど?