そう言いながら椎名君の腕を掴み、思いきり力を入れる。圧迫される喉元と、圧迫する腕。双方、全く譲らない。




「………アホらし」

意外にも、先に力を緩めたのは椎名君の方だった。深い溜息を吐き、その赤く燃えるような瞳を僕に向ける。

「お前、変わっとんな」

それが褒め言葉だったのか、貶しの言葉だったのかは今でも解らない。けれど、この日から椎名君が変わり始めたのは明らかで。

「僕から言わせて貰えば、椎名君もじゅーーっぶん変だけど」
「…アホぬかせ」

僕等はいつも二人で居るようになった。

そして思い知る。

人という生き物が、どれだけ醜い生き物かを。僕は、椎名君と行動を共にするようになってから、先生に呼び出される回数が極端に増えた。悪い意味で。


『椎名に脅されているのか?』
『汚らわしい菌が移るぞ!』
『君は優秀な生徒なんだから』


――吐き気がした。

「椎名君は僕の友人です」

いくら言っても聞きやしない。耳を貸そうともしない。大人という奴は、いや、人間という奴は醜くて非情だ。

それは、同じ事をクラスメートにも言える。あれ程僕に擦り寄って来ていた人間達は、一気に身を引いて離れて行った。

結局“友人”という仮面を被った人形に過ぎなかったのだ。

ほんと、笑える。

でもそれが悲しいとも寂しいとも思わなかった僕こそ、本当は醜い人間なのかもしれないな。

「――オイ!」