彼はいつもボロボロで、血塗れだった。

けれど、負けてはいない。相手が先輩だろうが何だろうが容赦なく喰ってかかる姿には、拍手を送りたい程だ。

僕も一度だけ、遠巻きではあるけど、その場面を見た事があった事を思い出した。

『大変そうだなあ』

そんな軽い気持ちで見ていた気がする。

別に椎名君が人を殺したわけでは無いし、それを理由に嫌がらせをする人間にも、そしてそれに答える椎名君にも、興味が無かった。

まさか、自ら自分で関わっていこうとするなんて。あの頃の自分に教えてあげたい。この僕の奇怪な行動をね?




「椎名君、そろそろ僕の名前覚えてくれた?のーのーうーえ、めーぐーみ!」
「―――」

背を向けて、スマートフォンを弄っている椎名君からの返事はない。

「恵でいいよ、なんならメグでもい……っとお、」


眼鏡が落ちて、派手な音を立てる。

僕は胸倉を掴まれ、気が付けば壁に背を打ちつけられている体制になってた。あれ、これって普通は焦る感じの所かな?

ギリギリと、喉元を圧迫される。

「お前、ほんまに何やねん!鬱陶しい言うてるやろ!シバかれたいんか!」

物凄い剣幕で捲し立ててくる椎名君に、僕は微笑んだ。


「別にシバかれるのもいいけど、僕は負ける気がしないな。こう見えても強いんだよ?まあ、喧嘩はした事ないんだけど」