反射的に手を引っ込める。

そして僕は見つけた。今まで全てが同じに見えていた人間だったけど、如何し様も無く“彼”に惹かれてしまったんだ。

揺れる黒髪に、深紅の瞳

着崩されたブレザー


椎名 瑞樹


入学してきた時からの問題児で、今は“人殺しの弟”のレッテルを貼られている人物。

さっきの子が言おうとしていた言葉の続きは、聞かなくても解った。きっと彼の事を言いたかったんだろう。


「…何見とんや」

低い声が響く。

「別に?何でもないよ」
「―――」

僕は臆する事なく、にこりと答えた。

それを見た彼は、眉間に皺を寄せながら舌打ちをする。そして、


「嘘くさい笑顔やな」

今まで誰にも言われた事の無い言葉を、返された。

「………へえ」

遠ざかっていく彼の後姿を見ながら、僕は口元に手をあてる。何でかって?

それは口元が緩んでしまっていたから。こんなの、初めてだ。ドキドキ、ゾクゾク?


「うん、楽しくなりそう」

誰にも聞えないような小さな呟きは空気に溶け、僕はそのまま教室を後にした。