そんな疑問を問いかける様に椎名君を見つめた。でも、すぐさま後悔する。見なければ良かった。

あんなに苦しそうな顔…


「ごめん、父さん」
「ゴメンやないやろ?!どれだけ心配してたと思うてるんや!せめてもっと連絡ぐらいしてきぃ」
「ごめん…」

椎名君の声が震えている。

みんな、みんな、辛そうなのは何で?どうして“柚樹”って言った事に対して誰も何も言わないの?訂正、しないの?

それはまるで、映画のワンシーン。僕はたった一人の観客。傍観者。

作られた“家族”





唖然としている僕に、皐月さんが控えめに背中に手を寄せる。

「ごめんな、恵くん。今日は帰ってもろていい?明日、ちゃんと瑞樹に話させるようにするから」
「あ、……はい」

素直に従うしかないと思った。

持って来ていた飾り物の鞄を胸に抱いて、玄関へそっと足を滑らせる。最後にチラリと椎名くんのお父さんを見た。

けれど、僕の存在は“無”のようで。いや、僕だけじゃない。椎名君以外の誰も、目に入ってはいないようだった。





「お邪魔しました」

形式だけの挨拶は、空回る。天高く昇り始めた太陽の熱量は、僕の背中にじわりと嫌な汗が滲ませた。