拒もうとしたけど、私を抱き寄せるその腕が震えていて、振りほどくことが出来なかった。

「……神崎先輩?」

 おかしい。

 いつもならぎゅって、私が逃げ出せないくらい強いのに……。

 小さな子どもがはしゃぐ声が響く公園なのに、まるでスパッと空気が切れたかのように私たちを取り巻くそれはひどく静寂に飲み込まれていた。

「……俺優衣ちゃんのピアノが聞きたい」

 どうして、そんなに切なそうなの?どうして、そんなに辛そうなの?

 顔が見えないからなのか、あまりにも神崎先輩が変だからなのか、不安が募る私はちらりと神崎先輩を盗み見た。

 見なければ良かったのかもしれない。

 「……せんぱっ」静寂を破ったのは私のかすれた声。

 抱き寄せられた反動で地面に落ちたイチゴクレープは、夏の太陽に負けて溶けている。

 それに視線を移した私は、くっと唇を噛み締めた。

 怖い。怖いよ、神崎先輩。

 どうしてそんなに神崎先輩は怒ってるんですか?

 神崎先輩お願いです。お願いだから、いつもみたいに笑って下さい――