悲しく切ない涙。
言いたくなかったのは、彗に置いてけぼりにされる気がしたから。
だから、言えなかった。
大切だから、言えなかった。
「言ってくれない方が…淋しいよ」
彗の目からも涙がこぼれた。
まるで感情を共有するかの様に二人揃って泣いた。
静かに星は涙を腕の裾で拭った。
同じ様に彗も腕の裾で涙を拭った。
本当に写し身。
静かに星は涙を拭った手に握られている物を彗に差し出した。
首を傾げて彗は何だろうと手に握られている物を見つめる。
手に握られていたのは、四葉のクローバー。
「…如何しても彗にあげたかったの」
元気の無い笑顔を見せた。
そのクローバーを受け取って彗はジッと見た。
「何でそこまでして…」
「幸せになってほしいから」
言葉を遮る様に星が言った。
自分は如何なっても構わないから、双子の片割れだけでも幸せになって欲しい。
そういう願いだったのだろう。
それを聞いて更に彗は涙を流した。
「僕より、自分の事を考えなよ…」
星は静かに首を横に振った。
あくまで考えは自分より彗。
硬い決意。
「二十歳まで生きられないって言われたの」
更なる衝撃の事実。
ずっと一緒にいた星は二十歳まで生きられない。
「お父さんとお母さんは私達を気にしないでしょ」
二人の両親は放心主義。
育児は使用人達が全てしていた。
血が繋がっているけど、両親とは呼び難い両親。
だから、二人はあまり両親を信用はしていなかった。
仕事が常に優先されて、誕生日を家族揃って祝った事はない。
孤独な二人。
両親がこんなだから、二人はずっと一緒という約束をした。
血が繋がっている、大切な双子だから。
「…星」
彗は名前を呼ぶしか出来なかった。
無力さを実感させられる。
君は如何してそこまで僕の心配をするの?
自分の心配をしないで僕の事ばかり。
コレも僕等の運命なのかな。
双子に生まれたが故の運命。
だから、僕は運命を呪うよ。
双子だから出会えたけど、双子だから言えない。
神様なんか、大嫌いだ。
stage10 小さな願い
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医者に言われて今日は取り合えず家に帰った。
使用人だけがいる、彼女がいない家に。
「お帰りなさいませ。坊ちゃん」
数人の使用人達が一声に彗に話しかける。
親は現在海外出張中。
大手企業の社長と副社長。
忙しいのだろう。
だから、育児もしない。
「ただいま」
その返事を聞いて使用人達は何があったのかを察した。
星の病気の事は使用人は知っていた。
だから、常に気をつけながら接し続けた。
だけど、最悪の事態が起こってしまった。
「お嬢様の容態は如何でしたか?」
一人のメイドが心配で聞いてきた。
家に連絡はしないようにと彗が病院に指示をしたから状況は伝えられていない。
連絡する際には自分のケータイへ。
そうすれば、自分に星の事が伝わる。
「今は大丈夫。ねぇ…星があんな風なの知ってたの?」
使用人達は黙り込む。
言わないでいたのは星の命令。
命令に背く事は使用人はしない。
それは色恋家に仕える者達。
「…知ってたんだ。星に言わないように言われたとか?」
本当の事を言われたので更に何も言えない。
彗は唇を噛み締めた。
そして、自室へ向って走る。
「坊ちゃん!!」
それでも彗は止まらず走った。
全力疾走。
止める術はない。
「結崎さん。坊ちゃん…如何なってしまうんでしょう」
「私には判りません。あとは坊ちゃんとお嬢様次第です」
掛けている眼鏡を左手の中指であげた。
眼鏡が光り瞳の奥が見えない。
左手の中指で眼鏡をあげるのは結崎のある癖。
それは、彗と星を心配する証。
口ではそう言うものの、本心では心配している。
「お嬢様…頑張って下さい」
手を結び願いをかける。
それは神に向けての願いか、星に向けての祈りか。
彗は自室へ戻りベットに顔をうつ伏せた。
涙が溢れ、ベットを塗らす。
こぼれて止まない涙。
泣いて泣いて泣き続けた。
知ってしまった事実。