「ここを直したバージョンで少し前のほうから弾いてみてもらえる?」

「はい。」


曲の前の方から弾き始める紀紗。
やっぱりこっちの方がいい。耳に馴染む。
すごい…な紀紗。こんな短時間というか1回弾くだけでどこをどうすれば聞きやすくなるのか分かるなんて…。
いや…もともとすごいっていうのは分かってたことだけど…。


「初見でそれだけ弾けるとは…。
たいした腕前だな。」

「…ありがとう…」

「どの曲も大体は初見でそのぐらい弾けるのか?」

「大体なら。
有名な曲なら、曲名さえ言ってもらえれば弾けると思います。」

「ドビュッシーの月の光とか…弾けるか?」

「はい。」

「月の光が好きなんて意外な事実だなぁ…雅樹クン?」

「翔吾、静かに聴け。」


紀紗は楽譜も見ずに、繊細な音を奏で始めた…。
なんかあまりにも心地よくて、俺は睡魔に襲われた。