「なっ…何言ってるのかよく分かんない。」

「自覚しようとしないからなのか、本当に自覚してないのかは分からないけど…
それでも私は、あなたが司のことを本気で好きだったんじゃないかって思ってるんだけど。」

「どうして…?」

「あなたがあの事故で失って一番辛かった人は…
司に見えたから。」

「………。」

「家に帰ってきてすぐ、司の部屋にこもりっぱなしになって…
ずっと司の楽譜を抱いて…
声を押し殺して泣いていたあなたを私は見守ることしかできなくて。
あまりにも痛々しかったから…
声をかけることもできなかったわ。」

「………。」

「あなたが一番すがったのは司との思い出よ。
一番失くしてしまいたくなかったのは、今でも司との思い出なのよ。」

「司…。」

「ま、あとは自分で考えるのね。
私はもう何も言うことないし。
でも紀紗、最後に一つだけ。」

「なに…よ?」

「紀紗、あなたはもうあの時のままではいられないのよ。
司はもう進まない。
だけどあなたは確実に進んでいる。」

「…?」