「先生超上手いー!!」

「じゃあ、次、幻想即興曲弾いて下さい!!」


1曲弾き終えたところで、松下玲の周りには続々と生徒が集まって、リクエストの嵐になった。
どうやら彼女はあの1曲で生徒の緊張感を砕いたらしい。


なんで俺が最初だったのかとか、もうどうでもいい気さえしてた。
なんか次々、生徒のリクエストに応えられてすごいな…ホントに。
紀紗も弾けない曲とかないんだろうなぁ…。
そんなことばかり、とりとめもなく考えていた。


冷静に考え直してみると、やたら思考の中に『紀紗』が出てきていることを知る。
紀紗だったらこうする…とか、紀紗と先生の違いはここなんじゃないか、とか。


「…どんだけ浸食されてんだ、俺。」

「悠夜?」

「あー…なんでもない。」

「?」


理子が不思議そうに俺を見つめていた。
その微妙な気まずさを打ち破ってくれたのは授業終了のチャイムだった。