｢あの…さ…｣

｢ん…？｣

｢最近になって…
というか、紀紗が留学するってことになってから…
ずっと考えてたことがあるんだ。｣

｢え…？なに？｣

｢4月…俺たちが出会ったときのこと覚えてるか？｣

｢うん。…忘れるわけないよ。｣

｢そう…だよな。
紀紗との出会いは俺にとってなんていうか衝撃だった。
自分より明らかに若い女の子が、切なげな曲奏でてる…
生まれて初めて、人の演奏を聴いて涙が出た。｣

｢確かに…泣いてたっけ。｣

｢うん。
あの時は理由が説明できなかったけど、今なら出来る。
心のどこかで演奏に感動してた。
同時に、その切なさが心に響いたんだ。｣

｢…。｣

｢あれからたわいもないことを話すようになって…。
ずっと側にいて、ピアノを聴き続けて…
ひとつ決めたことがあった。｣

｢なぁに？｣