な…んで『そうだと思った』なんだ…？
だって俺と松下玲が会うのは…これが初めてなのに。


彼女とのたった少しの会話だけで、俺の頭は疑問まみれになっていた。
だが、そんな俺をよそに、彼女は松下玲はピアノに向かった。
一呼吸置いて、鍵盤に指を下ろす。


音楽鑑賞っていうくらいだから…普通にクラシックのCDでも流すのかとか思ってた。
それなのに…彼女は楽譜も見ずに弾き始めた。
紀紗に負けず劣らず上手い。


紀紗と決定的に違っているのはやはり、『雰囲気』だと思った。
紀紗がどんな曲を弾いても何か…言葉には表わしにくい余韻が残る。
大抵は胸が苦しくなるような『切なさ』だ。


「…上手い…。」

「本当に。プロのピアニストなんじゃないかしら？」


理子は俺の隣で真剣に松下玲の奏でる旋律に耳を傾けていた。