「それで?」

僕は「やれやれ」と何度目かのため息をこぼし、取り敢えず山猫教授の話を聞いてみることにした。

「その絵の女性が、その"九日間の女王"なんですか?」

「そうじゃ」

「ジェーン・グレイ……」

シロナが目の前の大きな油絵を見上げ、呟くようにその名を読んだ。

山猫教授がうむと頷く。

「長くなるがの」

「また?」

「またとは何じゃ?」

「いや」

僕は近くの椅子に腰を落とした。よくよく今日はいろんな話を聞かされる日であるらしい。

「もうずっと昔の話じゃ」

そんな僕の思いをよそに、山猫教授は眉を寄せ、後ろ手を組んだまま、感慨深げに絵の前をウロウロと歩き出したのだった。