僕とシロナは口を半開きにしたまま、ぐるぐると広い館内をさ迷い歩いた。

そうして一時間ほど経った頃、僕はある一枚の油絵と出会った。

と言っても、別にシロナやバクのように絵が話しかけてきたわけでもなければ、見覚えのある絵だったわけでもない。

ただただ、『吸い込まれた』

それが一番的確な表現だろうか。

まるで心臓を優しく掴まれてしまったかのような不思議な感覚。

動けない。

目を反らすことができない。

瞬きも、呼吸すら忘れてしまうほどに、僕はその絵に惹きつけられ、しばし時を忘れて立ち尽くした。


『The Execution of Lady Jane Grey』


脇のプレートにそう記されたその絵は、ひときわ大きな宗教画だった。