ところが、今日はたった一つだけいつもと違う思念が僕の頭の中に割り込んできた。

『待っとるよ』

確かにソイツはそう言った。

聞き覚えのある、少ししゃがれた老人の声だった。

……山猫?!

何度か夢に見た星空レストランの山猫を思い起こした途端、凄まじい羽音と同時に僕は我に返った。

何事かと見上げると、さっきまで少女のもとに集まっていたハトの大群が一斉に飛び立ち、まるで広場をなぎ払うかのように旋回する様子が見えた。

「……なに?」

トロンとした眼でシロナが尋ねた。

「ハトだよ」と僕は答えた。

するとシロナは口の中で何か呟き、瞳を閉じたまま最後にハッキリとこう言った。

「お腹すいた」