俯せに向き直り、テーブルに手を伸ばして紅茶を淹れる。

夢ではない。

幻でもない。

昨夜、僕はシロナを抱いた。

だけどそれはとても不思議な感覚だった。

シロナは人ではない。そもそも実態があるのか無いのかすら定かではない。いつの間にか僕の心に棲みついた、絵はがきの中のクジラにすぎない。

ただ一つ確かなことは、僕はシロナの体を求め、彼女はそれを受け入れた。腕に残る微かな香りと温もりが、何よりの証拠だった。

「服、着ないの?」

鏡の中からシロナが言った。

「着るよ」

「頭は?」

「それは後」

僕は苦笑いで返し、ドレッサーに映るシロナの後姿を目で追った。

「砂糖は?」

「ストレートがいいな」

「大人だね」

意外に、と付け足すと、少し濡れたバスローブが飛んできた。