だいぶ経ってから、沸かしていたお湯で紅茶を淹れた。

僕がティーカップを手渡すと、シロナは体にシーツを巻き付けて「ありがとう」と微笑んだ。

「怒ってない?」と訊ねると、「どうして?」と言ってシロナは紅茶を一口すすった。

「別に」

「変な人」

「どっちが」

心地よい脱力感の中で、僕は僕のコンパスを開いてみた。

壊れたままのそれはやっぱりまだ動いてはいなかったけれど、何かが少しずつ変わり始めているような予感がした。

「美味しい」とシロナが言った。

「だろ?」と僕は少し得意げにカップを手に取った。

急に不安になった。

これで良かったのかと自問する。

僕は自分の性欲を押さえられなかった。僕はシロナに早紀の幻を見ている。シロナはそれを分かっていて受け止めてくれた。それだけのことだ。

初めて英国で飲んだ紅茶の味は、日本のそれと少し違う味がした。