老婦人はにこりと微笑み、宿泊カードを僕に差し出した。

「どこでこのホテルのことを?」

僕が宿泊カードに名前と住所を記入していると、老婦人がシロナに訊ねた。

「エアバスから見えたの。とても素敵なホテルだと思って」

「ああ」

老婦人は得心顔で手を合わせ、それはとてもラッキーだったわね、と言った。

「なぜ?」とシロナが訊ねた。

「ここに来る途中、右手にハイドパークが見えたでしょう?」

「ハイドパーク?」

「ええ、とても大きな公園よ」

「そう言えば」

「いつもならエアバスはその公園の北を走るベイズウォーターロードを通るのよ」

老婦人は楽しそうに手を広げ、身振り手振りで説明を始めた。

きっと退屈だったんだろう。

フロントデスクの上に積み上げられたトランプタワーを横目に見ながら、僕はそんなことを考えた。