定刻を十分ほど過ぎた頃、バスはようやくノソリと動き出した。

「あれは何かしら?」

夕焼色から桔梗色へと染まり始めた窓の外を眺めていたシロナが訊ねた。

「羊だよ」と僕は答えた。

羊は十匹ほどの群れで固まり、牧場の草を無心で食んでいた。

「こっちは羊の放牧が盛んなんだ」

「山羊じゃなくて?」

「違う違う。山羊と羊とでは角の形がまるで違うだろ」

「ふうん」

とシロナは相槌を打った。

それっきり、羊のことなど忘れてしまったかのように窓の外を見つめている。

どうやら羊と山羊の違いには、あまり興味がないようだった。

僕は少し損をしたような気分になって、反対の窓の外に目を向けた。