早紀のことにせよ、両親のことにせよ、夢の中の僕の記憶は、すべてがひどく曖昧になっているようだった。

そもそも今ここに早紀はいない。

僕は何を口走っているのだろう。

僕は山猫に答える僕を天井から見下ろしながら、冷めた頭で考えていた。

山猫は「ふむ」と呟き、白くなったヒゲをピンピンと踊らせた。

僕は、この山猫を知っていた。

前に一度夢に出てきた、星空レストランのオーナーに違いなかった。

それを訊ねようとすると、山猫はにやりと微笑み、「また会おうぞ」と言って、クルリと僕に背を向けた。

あっという間もない。

ほんの一瞬、瞬きをした途端、レストランは忽然と姿を消し、深い森の奥に僕一人が取り残されていた。

「おい」

と短く叫んだかと思うと、突然ガタンッと強い震動を体の底に感じ、僕はようやく目を覚ました。