あの時もそうだった。

十年前、僕をかばうために、早紀は躊躇いなく自分の体をあの男に差し出した。

それが男の要求だった。

僕は必死で訴えた。

血の繋がった僕たちが、たったそれだけの理由でなぜお互いの体を求め合い、愛し合ってはいけないのか。モラルって何だ?あんなヤツに見つかったからって、何も恐れることはない。なぜ早紀がそんなもののために犠牲にならなければいけないのか……と。

それでも早紀は微笑んでいた。

諭すように僕の頭を撫で、「大丈夫よ。すぐに終わるわ」と言って、あの男の腕の中に体を預けていった。

僕は、早紀の髪が好きだった。

声が好きだった。

横顔も、白い肌も、ちょっと小首をかしげて微笑む仕草も、何もかもが好きだった。

早紀は昔から病弱で、何かあればすぐ咳込んでいた。そんな時には、早紀の華奢な背中をいつまでもさすってやった。

一度だけ喧嘩をした。

チャンネル争いは何度かした。

セックスは、数え切れないほどした。