「ありゃダメだね」と羊は言った。

「ダメか」と誰かが肩を落とした。

「何と言うのかな……例えるなら今ここにお互いの姿が見えないレストランがあるとしようじゃないか」

ヤギのような姿をした羊は、ナイフを片手に続けた。

「彼らは確かにそこに居るんだよ。それもすぐ隣の席にね。ところがうまい具合に背中合わせで気付かない」

「なんだ。それじゃ昔っから何も進歩していないのね」

林の向こうから声が聞こえた。

振り向けば、ちらと見える湖の中からクジラが大きな頭を突き出していた。山のような体が星明かりに照らされ、キラキラと紺色に輝いている。

「そう言うことじゃの」

「困ったネ」

「バクよ、お前さんの忠告はまるで届いていないようだねぇ」

「……で、次は誰が行く?」

「クジラだろ?」

「私は現在進行形よ」

「そうだった。もしあんたでダメならもう打つ手が無くなるぞ」

「それにしても人間って面白いぜ」

「猟師もか?」

「君、それはそれだよ」