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その日も僕は、紅茶を片手に昼下がりの街を見下ろしていた。

水平線に浮かぶタンカ、ポートアイランドに並ぶガントリークレーン、真っ赤なアーチ型の神戸大橋、山の手のケヤキ並木、立ち漕ぎで急坂を登る女子高生。

六甲の山肌に張り付くように建つこの家のテラスからは、たいていのものが見えた。

見えないのは僕の未来くらいなものだ。などと戯れ言を垂れてラジオをつけると、最近よく耳にする歌が流れていた。

誰の歌かは知らない。いつもDJに紹介されているのを聞いているのに、すぐに忘れてしまうのだ。

確か「朝目が覚めて、ふと彼女が立っているような」……そんな始まりだったような気もするが、それすら怪しいものだ。

そもそも僕にとって、「朝」という定義が曖昧だった。ライターなどという非人間的な職業ゆえなのかも知れないが。


思えば早紀は早起きだった。もちろん僕よりはという注釈つきで。

僕が起きると、早紀はよく僕の爆発した頭を指さして笑っていた。

死んでからだって、よく笑ってた。

だから、あの歌詞は嫌いじゃない。