「それで?僕に何か用?」

「まあね」

「僕にどうしろと?」

「探すのよ」

「誰を」

「決まってるでしょ」

「……早紀なら死んだよ。もう十年も前に部屋で首を吊って」

「変ね。あなたさっき私をそのサキだと言ったじゃない」

「……」

僕はむっつりと押し黙った。

なるほど。バクの次はクジラか。

最初にバクと話したきり、毎年絵はがきは届くものの、動物と"会話する"ことは久しくなかった。それなのに……

僕が小さいため息をこぼした途端、クジラは大きな尾っぽをぐんと反らし、水しぶきを浴びせて海の底に消えた。

僕は無言で立ち上がり、「やれやれ」と呟いて振り向いた。

もうそこに彼女の姿はなくて、境内へと続く砂利道に、僕と鳥居の影だけがどこまでも長く伸びていた。