家路に向かう川縁のあぜ道を、僕とシロナは肩を並べて歩いた。

シロナがスカートの裾を翻した。少しバランスを崩した彼女の手を、僕は咄嗟に握りしめた。「ありがと」とシロナが微笑んだ。

ヒグラシが鳴いていた。

ブナ林が静かに揺れた。

キラキラと翻る川面の上を、懐かしい風が通り抜けた。

太陽に沿って伸びた僕たちの影は、過ぎゆく夏を名残惜しそうに、揺らめく陽炎に溶けて交ざった。

僕は思いだした。

いつだったか、僕はシロナに訊いたことがある。君の役目は何?と。その時彼女は少し考えてから、僕に向かってこう言った。

「あなたを最期まで見届けることよ」と。


トタン屋根しかない停留所にバスが停まっていた。

乗客の姿は誰一人見えない。ガランとしたバスだった。

「行こうか」と僕は言った。

「うん」とシロナは僕の手を握り返した。

バスの窓から神社が見えた。

遠ざかっていく鳥居の向こうには、鮮やかな緋色の空が広がっていた。