『とどまってはいけないよ。捕らわれてしまうからね』

バクの言葉が脳裏をよぎった。

その言葉を理解するのに、僕には十年の歳月が必要だった。

「雨がやんだわ」

とジェシカが言った。

緋色に染まったヒースの庭を見つめ、僕は今度こそブレイドゲートに行ってみようと心に決めた。

僕は生きている。

これからも生きていく。

「今」を歩いていく。

僕はもう一度空を見上げた。

緋色の空に無数の金色の雲が列をなし、北に向かって流れていた。

風が舞った。

教会の鐘が聞こえた。

やがて空は、鬱積した僕の胸の奥にこびりついて剥がれなかった何かを、少しずつ、少しずつ、溶かしていくのだろう。