「シロナ……」

僕は庭に両膝をついたまま、震える腕を空に伸ばした。

「君も、消えるのか?」

ズルリと片足を起こし、「嫌だ」と弱々しく首を振る。

「行かないで。お願いだ。もう僕を一人きりにしないでくれ」

僕は懸命に訴えた。

シロナはじっと僕を見下ろしたまま、閉じていた口を再び開いた。それはまるで母親のイルカが子供達に諭すような優しい口調だった。

「立って」

それからシロナははにかむように微笑んだ。

「覚えてる?前に言った言葉」

僕は小さく首を振った。シロナとは色んな話をしたし、色んな言葉をもらった。なのに分からない。彼女が今僕に伝えようとしている言葉が何なのか、僕には微塵も分からなかった。

「心配しないで」シロナはもう一度微笑んだ。

僕はゆっくり息を吸い込んだ。

細長く吐き出すと、息は白い水蒸気となって消えた。