どのみち早紀は、死ぬつもりだったのかも知れない。僕をおいて。すべてを洗い流してしまうように。

生きていく選択肢もあったはずだった。

だけど早紀は死を選んだ。

もしかしたら、早紀は自分を許せなかったのだろうか。

分からない。

ただ、それでも生きていて欲しかった。

たとえ僕が罪を償い、この世界から消えたとしても、それでも早紀にはずっと生きていて欲しかった。


「女の子は早熟だから」

とジェシカは言った。

心なしか、僕の顔を見て微笑んでいるようだった。

秒針の音が聞こえた。

クジラの姿はもう見えなかった。

少女は言った。

「あの日の彼女の気持ちに、あなたは十年の歳月を費やしてたどり着いた。ただそれだけのことよ」と。