「つまり、氷山の一角なんだよ」

と僕は言った。

「そこに見えている物はほんの一部でしかなくて、それだけを見て分かったと思い込むのは間違っているんだ」

「でも、それはきっと間違いではないわ」

「そうかもね。人は万能じゃない。海中の氷塊に気づくには、海に潜って確かめるしかないんだから」

「……海中の氷塊」

「例えばね。そこにはクジラだって泳いでいたかも知れない」

「あなたがやらなければ、早紀が男を殺していたかも知れない」

とジェシカは続けた。

そう。

たまたま僕が先だった。

それだけのことだ。

双子の兄弟が、たまたま早紀が最初に顔を出したのと同じように。

だけど、それならなお、その役目は僕がやるべきだったのだ。