「ヨークからの列車の中で少しずつ思い出したんだ。あの男は早紀の遺言をきっかけに捕まったんじゃない。それは僕が僕の記憶に刷り込んだデタラメだってね」

僕はゆっくりと息を吐いた。

虚実が混ざり合った頭の中を一つずつ整理していくように、時に紅茶を飲み、時に瞳を閉じて、十年前の記憶を遡った。

瞼を閉じると、血溜まりの中で倒れている男の姿が蘇った。

あれはけして妄想なんかじゃなくて、かつての僕が見た本物の映像に違いなかった。

「ヨークで見たんだよ。あの男が倒れている姿をね。それがきっかけだった」

「きっかけ?」

「そうさ。あの映像をきっかけに僕の記憶が逆流を始めたんだ」

「そう」

ジェシカがカップを置いた。

カップに絡めた少女の指は、とても細くて美しかった。