僕は二杯目の紅茶をカップに注ぎ、リビングにはめ込まれた大きな窓に目を向けた。

さっきまで見えていた庭園が、いつの間にか濃紺に染まっていた。

大小様々な気泡が窓いっぱいに立ち昇り、次から次へと消えては現れ、尽きることなく海面を目指していた。

紺色の海を大きなクジラが泳ぎ、無数の色鮮やかなイソギンチャクや魚達が海流の中で揺れている。

僕は、深い海の底で言葉を紡いだ。


「予感はあったんだ」

「予感?」

「そう。もっと言えば、消していた記憶の断片が蘇った。と言った方が適切なのかもしれないけどね」

「そう」

「君の仕業じゃないんだ」

「私にそんな力はないわ。あなたが自分で取り戻したのよ」

ジェシカは微かに表情を緩めて頷いた。