ジェシカの声をどこか遠くに聞きながら、僕はゆっくりと視界を巡らせた。

ぬいぐるみも無ければ写真もない。花も、本棚も、テレビすら見あたらない。少女が暮らす家にしては、いやに簡素で飾り気のない部屋だった。

そもそもジェシカはこの家に独りで暮らしているのだろうか?

まさか。

と僕は思考の中で否定した。

見た限りジェシカはまだ幼いし、ましてや車椅子だ。とても独りでなど暮らしていけるはずもない。

とは言え、ジェシカ以外にこの家に人の気配は感じられないのも事実だった。

もしこの十年間、あの老夫人のホテルにヒースの花を送り届けていたのがジェシカ本人だとしたら……

「一つ聞いてもいいかな?」

あり得ないことと思いながら、僕は確かめずにはいられなかった。

「なに?」

とジェシカが小首を傾げた。

その仕草が、どことなくシロナのそれと似ていた。