あの頃の僕に、何かを理解し、享受することなど到底できやしなかっただろう。

だから、時間を費やした。

早紀が辿った道のりを追いかけ、早紀の影を探しながら。

止まったままのコンパスを、また動き出せるようにゆっくりと暖めた。

だけど……

「すべてって何?」

僕はジェシカに尋ねた。

微かな沈黙が流れた。

少女はそのアイスブルーの瞳でじっと僕を見つめ返し、

「もう、気づいているはずよ」

と言った。

外はまだ、静かな雨が降っていた。

僕は少女から視線を逸らし、吸い込まれそうなほどに暗い天井を見上げた。