「だってそうだろう。十年も掛けるくらいなら、最初から僕の前に現れてくれれば良かったんだ。もちろん感謝はしている。いや、これが感謝という気持ちなのかは分からないけれど、少なくともそれに近い感情ではあると思う。だけど……」

「腑に落ちない」

「ああ」

僕は一息にまくし立て、手にした紅茶をガブリと飲み干した。

「一つ聞いていい?」

車いすの車輪に指を添え、ジェシカが雨に濡れた窓を見つめながら僕に尋ねた。

「十年前のあなたに、すべてを受け入れることができたと思う?」

「十年前の……僕」

僕はそのまま言葉に詰まった。

少女の言わんとすることが、ようやく僕にも分かった気がした。

十年前、

当時僕は十五歳だった。

ただ漫然と生き、口先ばかり雄弁で、そのくせ定かな目標があるわけでもない。

そんな僕の目の前で、早紀は男に侵され、首を吊って死んだ。