「早紀は驚くほどイギリスに詳しかったわ。憧れてもいた。そうでなければ、きっと私は彼女の魂を見つけることはなかったし、彼女を私の元に呼ぶこともなかった」

「つまり早紀は、信じられないことだけど、魂となってこの国を訪ねた。そして偶然君と出会った」

「そうよ」

ジェシカはコクンと頷き、話を続けた。

「なぜこの国に?と尋ねると、彼女はこう言ったの。『弟に教わったの』ってね」

「弟に……」

僕は言葉を失った。

僕の中で、何かが音を立てて崩れていくような気がした。


結局僕は、一人芝居をしていたのだ。


僕は僕を守るために、新たな人格を産み落とし、その代償に記憶の一部を削り渡した。

僕の心のコンパスを壊したのは、他ならぬ僕だった。

生きていく道標を、僕は自らそぎ落とし、自分の殻に閉じこもったのだ。